金沢大学子どものこころの発達研究センターの三邉義雄センター長らの研究グループは、大阪大学大学院工学研究科の研究グループと協力し、世界唯一の“親子同時測定が可能な脳磁計”を活用することで、自閉スペクトラム症幼児とその母親が見つめ合うときの脳で起きる3つの現象について明らかにした。
今回の研究は、金沢にある世界唯一の“親子同時測定が可能な脳磁計”を用いた世界で初めての医学研究報告となった。脳磁計とは、脳の微弱磁場を頭皮上から体に全く害のない方法で計測・解析する装置で、成人用に加えて2008年に幼児用を開発。超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせて頭全体をカバーするように配置することで、高感度で神経の活動を記録することが可能になった。幼児用の脳磁計は、日本ではこの1台のみだという。
さらに、親子が見つめ合った状態の脳全体の活動を母子ともに同時に測定するため、成人用の脳磁計と幼児用脳磁計を同時に測定することができる世界唯一のシステムを2014年に大阪大学との共同研究で開発した。
この脳磁計を使った今回の研究によって明らかになった3点は、以下のとおり。
・症状が重い自閉スペクトラム症では「見つめ合う」ことで生じる脳の反応が低下
・自閉スペクトラム症幼児の脳の反応が低下している場合、母親の脳の反応も低下
・見つめ合い中の母親が子どもに合わせてうなずくといった動作をした場合、母親の脳の反応が強い
これまでは同様の研究報告がなかったため、社会性をはぐくむ母子間の脳活動について何も解明されていなかった。今回、親子が見つめ合う状態で脳機能を同時測定できたことで、子どもの脳の社会性(社会脳)の発達を“見える化”する一つのステップになると期待される。健常児の子どもの場合の母子関係でも同様な現象が観察されるかは、現在研究中。なお、今回の研究は、親の関わり方が自閉スペクトラム症の原因になっていることを示しているわけでないという。研究成果は、米国の科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に日本時間 10月10日に掲載。