慶應義塾大学、東京大学、学習院大学の研究グループは、200年以上の歴史を持つ熱力学の分野で「何ができないか」を示す新たな原理的限界を発見。「効率を高くしようとすると不可避的に時間当たりの出力が小さくなってしまう」ことを証明した。
熱力学は無からエネルギーを創出できないという「熱力学第1法則」と熱エネルギーを100%利用可能エネルギーに変換できないという「熱力学第2法則」という二つの「できない」原理を基礎とする。どれだけ利用できるかの比率を「効率」といい、効率には上限値(カルノー比率)がある。また、「熱エンジン」などの熱エネルギーを運動・電気エネルギーに変換する装置が、時間当たりどれだけエネルギーを出力できるかを「仕事率」という。
今回、研究グループは最新の「非平衡統計物理学」を用い、一般的な熱エンジンについて、効率を高めると仕事率が不可避的に低減することを示す原理的な関係式を導出。この関係式から、エンジンの効率を上限値まで高めるには、エンジンの動作速度を無限に遅くして、利用可能なエネルギーがほとんど得られない状況にせざるを得ないことも結論されるという。 今回の結果は、「エネルギーを無駄なく利用し、かつ短い時間で多くのエネルギーを得る熱エンジンは可能か」という古くからの論争を否定的に解決したものという。
今回の成果は「不可能」を知ることで新しい理論体系の基礎となる。エネルギー資源の有効活用が重要となる現在、効率と仕事率の間の原理限界は、熱エンジンの性能評価の基準や開発指針として役立つことが期待される。