航空機搭乗者には、銀河由来と太陽由来の宇宙放射線(「銀河宇宙線」及び「太陽放射線」)による被ばくのリスクがある。一般に、飛行機の高度と緯度が高いほど、飛行時の被ばく線量は高くなるといい、日本においては公衆の被ばく線量限度が年間1mSvとされる一方で、航空機乗務員の宇宙放射線被ばく線量管理目標値は年間5mSvに設定されている。
「銀河宇宙線」が比較的低い線量率である一方で、「太陽放射線」の強度は、巨大な太陽フレアが発生すると突発的に極めて高くなることがある。そのため、大きな太陽フレアの間は、欠航や飛行高度を下げるなどの対策が求められる。
今回、京都大学と海上・港湾・航空技術研究所らの研究者らは、こうした対策にかかるコストと効果を試算するために、過去2000年間に起きた太陽フレアの頻度と強度、そして太陽放射線被ばく警報システムWASAVIESで推定した太陽放射線被ばく線量率の4次元空間時系列データを組み合わせて解析した。
その結果、低高度への飛行高度変更や欠航といった被ばく回避の対策が必要となるような太陽フレアの発生頻度は、約17年に1回と推定され、高度低下及び欠航に掛かるコストから算出される1年あたりの経済的損失リスクは、毎日運航する長距離便でも、最大約1,500米ドルと見積もられた。この値は、火山噴火など他の航空リスクと比べてもそれほど大きくはなく、十分に安いコストで合理的に太陽フレアによる被ばくの脅威を軽減できることが証明されたとしている。
本研究は、太陽放射線被ばくによる航空機運航計画変更に伴う経済的損失リスクの定量化に世界で初めて成功したものであり、今後の太陽フレア時の最適な航空機運用対策指針の決定やリスク対策に役立つことが期待される。