大阪大学大学院理学研究科の寺田健太郎教授が率いる共同研究チーム(JAXA宇宙科学研究所、名古屋大学)は、月周回衛星「かぐや」搭載のプラズマ観測装置を用い、太陽活動によって地球の重力圏から流出した酸素が、38万km離れた月に到達していることの直接観測に成功した。
地球は、地球磁場によって太陽風や宇宙線から守られている。太陽と反対方向の夜側では、地球磁場は彗星の尾のように引き延ばされ、吹き流しのような形をした磁気圏が作られ、その中央部には熱いプラズマがシート状に存在している領域がある(プラズマシート)。
研究チームは、「かぐや」搭載のプラズマ観測装置が取得した、月面上空100kmのプラズマデータを解析。月と「かぐや」がプラズマシートを横切る場合にのみ、高エネルギーの酸素イオンが現れることを発見した。これまで、地球の極域より酸素イオンが宇宙空間に漏れ出ていることは知られていたが、今回、「地球風」として38万km離れた月面まで運ばれていることを、世界で初めて観測的に明らかにした。
今回検出した酸素イオンは高いエネルギー(1-10キロ電子ボルト[keV])をもっていた。このようなエネルギーの酸素イオンは、金属粒子の深さ数10ナノメートルまで貫入できる。このことは、長年、謎であった月表土の複雑な酸素同位体組成を理解するにあたり非常に重要な知見という。
今回の発見は、太陽活動の影響のもとで、地球と月は相関するシステムとして数十億年にわたって力学的・化学的に影響しあい、共進化していることを明らかにした。今後、多くの人々の自然観や科学観に大きな影響を与える可能性があるという。