九州大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、宇留野武人准教授らの研究グループは、東京大学大学院薬学系研究科の金井求教授、理化学研究所の横山茂之上席研究員らとともに、がん細胞の悪性化に重要なキータンパク質を新たに発見し、そのタンパク質を狙い撃ちする化合物を世界で初めて開発した。
がんは我が国の死因の第一位で、3人に1人ががんで亡くなる時代と言われている。特に、がん遺伝子Rasの異常(変異)は、大腸がんや膵臓がんをはじめとして、がん全体の3分の1に及ぶのにも関わらず、これまで有効な治療薬は開発されていなかった。
今回、九州大学らのグループは、変異Rasによるがんの生存や浸潤には、DOCK1というタンパク質が重要な役割を担っていることを世界で初めて突き止めた。それだけに留まらず、同グループは、DOCK1の選択的阻害剤「TBOPP」の開発にも成功した。
Rasの発見から30年以上が経つが、変異Rasを持つガンに対する治療薬の開発はこれまでうまくいっていなかった。TBOPPの開発により、マウスにおけるがん細胞の増殖や転移が抑えられたことから、変異Rasを有するヒトの難治性がんの治療薬の創出につながることが期待される。
論文情報:【Cell Reports】Targeting Ras-Driven Cancer Cell Survival and Invasion through Selective Inhibition of DOCK1