名古屋大学大学院の野呂篤史講師らの研究グループは、日本ゼオン株式会社と共同開発したイオン性のゴム材料が、自動車のバンパーや小型船舶の船体などにも使用されている高強度複合樹脂材料、いわゆる繊維強化プラスチック(FRP)よりも耐衝撃性に優れることを新たに明らかにした。
熱可塑性エラストマーは、金属やセラミックスなどの硬い材料よりも軽量かつ柔軟性・伸縮性・加工性も兼ね備えたゴム材料。自動車の内装・外装部材用途を中心に利用されており、全世界で年間2兆円の市場規模を有するとされる。最近では、強度と靭性を兼ね備えた材料への市場ニーズの高まりからさらに研究・開発が進んでいる。研究グループも日本ゼオン株式会社と共同で、世界トップクラスの高靭性を示すイオン性の熱可塑性エラストマー(i-SIS)を開発していた。
今回の研究では、先端部が直径16mmの半球である棒状の重り(約3kg)を、同一厚みの試料に投下して衝突させることで、i-SISの耐衝撃性を直接的に評価した。従来型の非イオン性の熱可塑性エラストマー(SIS)の耐衝撃性と比較したところ、3.1~4.4倍高いことが分かった。また、軽量だが高強度を示すガラス繊維強化プラスチック(GFRP)に対しては0.86~1.22倍の耐衝撃性を示した。i-SISは軽量なゴム材料であるにも関わらず、高強度複合樹脂材料と同定度か、それを凌ぐ耐衝撃性を示すことが明らかになった。
i-SISは、軽量だがゴムとしての機械特性、熱可塑性、高い耐衝撃性も兼ね備え、工業的な生産も可能だ。耐衝撃性が要求される移動体のボディや関連部材等での利用により、移動体の軽量化や、軽量化を通じて低燃費化にも寄与し、脱炭素社会実現への貢献も期待されるとしている。