東京大学は、薬剤のみを用いてマウス多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)から三次元的に骨様組織を作製することに成功したと発表した。臓器を模倣した組織を試験管内で作製する基盤技術になると期待される。研究成果は2017年5月12日「Science Advances」で公開された。
多能性幹細胞からの組織培養には、組成が不明なウシ胎仔血清や、遺伝子導入、組換えタンパク質を用いる。しかし最近、低分子化合物のみを使用する方法が、安全性やコストの観点から注目を集めている。その一つとして、研究グループは2014年、4種類の薬剤のみを用いて多能性幹細胞から中胚葉を経由し、骨芽細胞を誘導する方法を開発した。
一方、組織の培養には、平面的な2次元培養ではなく、生体内のように三次元的に組織を作ることが重要と考えられている。
そこで研究グループは、薬剤のみを用いる誘導方法を、アテロコラーゲンスポンジを担体とした三次元培養系に応用した。
まず、多能性幹細胞の多能性を維持する阻害剤を使用した上で、低分子化合物で処理し、三胚葉に誘導できることを確認した。しかし、二次元培養系と異なり、三次元培養系では阻害剤なしで多能性を維持できることを見出した。
次に、骨芽細胞を誘導した薬剤を三次元培養系に添加。骨芽細胞のみならず骨細胞の誘導をも確認した。また、骨細胞に破骨細胞の前駆細胞を加えたところ、破骨細胞の形成を検出。このことから、誘導した骨芽細胞と骨細胞が、生体内と同様に機能的であるとしている。
この成果から、骨粗鬆症など骨疾患の治療薬開発や骨再生医療の発達、骨組織の形成や維持のメカニズムの理解につながるとしている。
論文情報:【Science Advances】Three-dimensional system enabling the maintenance and directed differentiation of pluripotent stem cells under defined condition