京都工芸繊維大学の森教授らの研究チームは5月22日、カイコの病原ウイルスを使って、ヒトの患部を治療するタンパク質を保護すると同時に長期間働かせることに成功したと発表した。
カイコなどの昆虫に感染するウイルスは、昆虫の体内で非常に頑丈な多角体と呼ばれる大きさ数ミクロンのタンパク質微結晶を作り、ウイルスはその中で何年間もの間、自らを保護することができる。そして、この多角体が付着した葉を昆虫が食べると多角体は昆虫の消化管の中で溶けだし、その中のウイルスが放出され昆虫体内で増殖し、最終的には再び多角体を作って自らを保護するというサイクルを繰り返す。
今回、研究チームは、このウイルスを保護する多角体を使うことで熱・乾燥・紫外線などに弱いタンパク質を保護することができるのではないかと考え、多角体にウイルスではなく必要なタンパク質だけを入れる方法を開発した。
軟骨や骨の再生の場合、それらを増やすための特殊なタンパク質を長期間(少なくとも1カ月以上)患部で働かせることが必要だが、これまでにそういったことのできる方法がなかった。しかし、多角体を使うことで軟骨や骨を長期間に渡って作らせることができることから、これらの多角体を使ってケンブリッジ大学との間で軟骨の減少に伴う骨関節炎の治療、骨再生に関する共同研究を行っており、特に骨の再生に関してはまもなく治験に向けた取り組みを開始する予定である。