東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授と池田和弘大学院生らの研究グループは6月7日、細胞ファイバ技術を用いてヒトiPS細胞を効率よく増殖させる技術を開発したと発表した。
ヒトiPS細胞を用いる基礎研究は比較的少量の細胞数で行われており、シャーレの底面に細胞を接着させる形で増殖させる二次元培養法が、簡便かつ安定的な培養法として用いられてきた。その一方で、大量の細胞数を要する再生医療への応用段階では、細胞を培地中に浮遊させる形で培養する三次元培養法が、コスト面において有用とされている。しかし従来三次元培養法では、ヒトiPS細胞が不均一なサイズで凝集塊を形成し、特に大きな凝集塊の内部では酸素や栄養の不足から細胞死が起こりやすく、全体として増殖率が低下したり、ヒトiPS細胞の性質が失われたりしやすいという問題があった。
今回、研究グループは細胞ファイバ技術を用いて作製された、ヒトiPS細胞を封入した中空状マイクロファイバ(ヒトiPS細胞ファイバ)を培養することにより、内部で形成される細胞凝集塊を、十分に細く均一な直径に維持し、細胞死を抑制することに成功した。さらに、ヒトiPS細胞ファイバの内部に細胞外基質を加えることで、これまでにない高効率での増殖を実現した。くわえて、この培養法は、内部の細胞が十分に増えた後、細胞を取り出し、新たにヒトiPS細胞ファイバを作製し培養再開するという継代作業を行うことができ、継代を繰り返すことで、長期に渡って高い増殖率(計算上約1カ月あたり10億倍の増殖)とヒトiPS細胞の性質が維持されることがわかった。
この成果は、ヒトiPS細胞を用いた再生医療の基盤技術として利用できる可能性があり、再生医療の発展と普及に寄与することが期待されるとしている。