東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明助教と山岡昇司教授らの研究グループは7月7日、京都大学、国立感染症研究所、塩野義製薬株式会社との共同研究で、エイズウイルス感染細胞内のウイルスコア構造体崩壊の原因が、細胞内リン酸化酵素MELKのコア構造体リン酸化によることを突き止めたと発表した。
エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)は遺伝子としてRNAを持ち、感染標的細胞内で逆転写という過程によってRNAを鋳型としてDNAを合成して、感染した細胞の遺伝子にウイルスDNAを組み込む。また、HIV-1が感染標的細胞に侵入する際に、ウイルス粒子に内包されているコア構造体を細胞内に放出する。HIV感染の成立には、このウイルスDNA合成ステップとコア構造体崩壊との「時空間的」な協調が必要となることは以前から知られていたが、コア構造体崩壊のタイミングを制御する具体的なメカニズムは分かっていなかった。
研究グループは、HIV-1感染標的細胞のひとつであるCD4陽性Tリンパ球を用いたゲノムワイドRNA干渉スクリーニングを行い、HIV-1感染を制御する宿主細胞内因子としてリン酸化酵素MELKを見出した。そしてMELKのHIV-1感染制御能を解析したところ、MELKの発現を抑制したCD4陽性Tリンパ球にHIV-1が感染するとウイルスコア構造体の崩壊タイミングが遅れてしまい、ウイルスDNA合成ステップが阻害されてしまうことがわかった。
またMELKはコア構造体を形成するHIV-1キャプシドタンパク質(HIV-1 CA)の特定アミノ酸残基を段階的にリン酸化することによりHIV-1コア構造体崩壊制御を行っていることを明らかにした。
この成果によってHIV-1コア構造体崩壊制御メカニズムが明らかになり、HIV-1感染に必要不可欠な宿主側要因がつきとめられた。また、発見した宿主タンパク質がリン酸化酵素であったことから、変異しやすいウイルス由来酵素タンパク質ではなく宿主側感染制御因子を標的とした新規エイズ治療法開発への応用が期待できるとしている。