歯科治療に用いる金属製の歯の被せ物には、金属アレルギーや審美性低下の問題などがある。また、最近では貴金属の価格高騰により歯科治療用金属材料の価格も上昇しており、医療費負担も問題となりつつある。
そこで近年、貴金属の代替として歯科用樹脂材料を用い、コンピュータ制御で作製する白い被せ物(CAD/CAM冠と呼ぶ)が応用されるようになった。しかし、CAD/CAM冠の保険適用は、現状では小臼歯と噛み合わせの条件が整った第一大臼歯に限定されており、強い咬合力が加わる第二大臼歯や歯列の最後方にある第一大臼歯への適用は見合わせられている。この背景には、大臼歯CAD/CAM冠の臨床的なトラブル発生リスクに関するエビデンスが乏しいことが挙げられる。
こうした中、東北大学のグループは、CAD/CAM冠を装着した362本の大臼歯を対象に、診療録を用いて最長4年間の経過を調査した。その結果、29.3%に臨床的トラブルが生じていたが、多くは冠の脱離であり、そのほとんどが再装着によりそのまま使用可能だった。再装着を許容すれば、生存率は93.1%であり、累積生存率は3年で86.5%だった(Kaplan-Meier法で算出)。また、どの部位の大臼歯であっても臨床的なトラブル発生リスクに有意差は認められなかったとする。
第一大臼歯CAD/CAM冠と第二大臼歯CAD/CAM冠の治療成績が統計学的に同等であったことから、本研究成果は、CAD/CAM冠がすべての奥歯に適用できる可能性を示唆する。ひいては、CAD/CAM冠の保険適用範囲がすべての大臼歯に拡大されることを前向きに支持するものである。CAD/CAM冠の適応症拡大は、金属アレルギー、見た目の悪さ、医療費増加などの問題解決につながると期待される。