東京医科歯科大学と名古屋大学の研究グループは、世界初の「エレクトロニクス(機械)フリー」かつ「タンパク質フリー」な人工膵臓デバイスを開発し、健常および糖尿病モデルマウスでの安全性、治療効果、3週間以上の耐久性等の医学的機能実証に成功した。
近年、糖尿病に対するインスリン治療においてはインスリンポンプの普及が進んでいる。しかし、患者に及ぼす身体的・心理的負担、機械特有の補正・メンテナンスの必要性、医療経済上の問題など多くの課題があり、そのため、エレクトロニクス(機械や電気)駆動を必要としない自律型のインスリンポンプである「人工膵臓」の創出が強く求められてきた。人工膵臓については、従来、タンパク質を基材とする試みがなされてきたが、タンパク質変性に伴う不安定性や毒性が不可避であり、実用化には至っていない。
こうした課題の解決策として、本研究グループは、タンパク質を一切使用しない完全合成材料のみで、人工膵臓の機能を発揮する自律型のインスリン供給デバイスを開発した。このデバイスを皮下に留置すると、連続的な血糖値検知と血糖値変動に応答した拡散制御からなるフィードバック機構により、インスリン供給が調整される。
マウスを用いた実験では、1型糖尿病(インスリン欠乏状態)および2型糖尿病(インスリン抵抗性状態)のいずれの病態においても、このデバイスが3週間以上の持続性を持って糖代謝を良好に制御することが実証された。
機械型のものと比べて極めて安価かつ使用負担が軽減されるこのデバイスは、発展途上国、高齢者、要介護者等、これまで普及が困難であった患者に対しても新たな治療オプションを提供する可能性を秘めている。