京都大学大学院の石見拓教授らの研究グループは、沖電気工業株式会社、株式会社ヘルステック研究所との共同研究で、不眠症の「認知行動療法」を応用したスマートフォン向けアプリを開発し、不眠に対する有効性が示された。
適切な睡眠習慣の回復による薬物を用いない睡眠改善治療法である認知行動療法(CBT-I)は有効性が示されているが、専門家の不足により提供機会が限られている。一方、スマートフォンアプリなどのインターネットを介したCBT-Iプログラムが開発され、専門家による対面治療と同等の効果があるが、脱落率(途中でやめてしまう率)が高い。また不眠が軽度の場合の有効性の検証は不十分だ。
研究グループは、プロンプトとよばれるショート・メッセージを、利用者が受容しやすいタイミングで送信して望ましい行動を誘発する「行動変容技術」を用いて、CBT-Iを応用したスマートフォン向けの「睡眠プロンプトアプリケーション(SPA)」を開発した。
睡眠問題を自覚する労働者116名(介入群60名と対照群56名)を対象として4週間の臨床試験を実施。介入群には、SPA上での睡眠日誌の記録、ショート・メッセージを用いた睡眠改善プログラムを提供。被験者個人の睡眠データ、ライフサイクルなどに合わせて最適化された内容を各被験者のSPAに自動送信した。評価は不眠の重症度と疲労の質問票で行った。
その結果、介入群は統計学的に有意な改善を認めた(脱落率3.2%)。睡眠問題を自覚する労働者対象の臨床試験でSPAの有効性が実証されたことにより、労働者の睡眠問題の悪影響軽減に寄与することが期待される。今後は、年齢層や文化的背景が異なる被験者を対象として研究を続ける必要があるとしている。