小学校の理科から習い始める光合成ですが、実はその仕組みにはいまだ解明されていない部分が多くあります。しかもその未解明の部分には、環境問題をはじめ、私たちが抱えているさまざまな問題を解決するヒントが隠されている可能性があるのです。9月10日、千葉大学は、東北大学、京都大学との共同研究において、光合成で働くサイクリック電子伝達経路の新たな生理機能を解明したと発表しました。この成果は、さまざまな光環境のもとで植物がその光合成効率を最適化させるメカニズムの解明に貢献し、農作物の増産や地球全体の大気中の二酸化炭素削減につながることが期待できます。
植物は電子伝達反応によって光エネルギーを化学エネルギーに変換します。この電子伝達経路にはリニア電子伝達経路とサイクリック電子伝達経路が存在することが知られています。後者のサイクリック電子伝達経路は半世紀以上も前に発見されましたが、その生理機能の全体像はいまだに解明されていません。高等植物のサイクリック電子伝達経路にはPGR5というタンパク質に依存する経路と、複数のタンパク質からなるNDH複合体に依存する経路が存在することが分かっており、特にNDH複合体に依存する経路は夏季の直射日光のような強光や乾燥などの環境ストレスの緩和に重要だと議論されてきました。
同研究グループは、主要作物であるイネを対象に、NDH複合体を欠損したイネの変異体を使って解析を行いました。最新の手法を用い、2つの電子伝達経路(リニア電子伝達経路とサイクリック電子伝達経路)とCO2ガス交換を同時測定したところ、NDH複合体に依存する経路は強光環境ではなく、むしろ曇天や薄暮などの弱光条件下での光合成反応の最適化に重要であることが明らかになりました。
同研究成果は、2015年9月11日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されています。
出典:【千葉大学】光合成で働くサイクリック電子伝達経路の新たな生理機能を解明~二酸化炭素濃度の削減や食料増産に期待~(PDF)