京都大学らの研究グループは、草地性絶滅危惧チョウ類であるコヒョウモンモドキを材料に、縄文時代から現在までの個体数の増減の歴史を明らかにした。本種の遺伝解析の結果、縄文時代中期(約6000年前)以降は個体数が大きく増加したものの、20世紀以降の草地面積減少に伴い過去30年には個体数が激減したという、まさに「栄枯盛衰」をたどったことがわかった。
コヒョウモンモドキは関東~中部地方の半自然草地(火入れや草刈りといった人為的な活動によって維持された草地)に生育するチョウ類の一種。近年顕著に減少し、環境省レッドリストで「絶滅危惧IB類」に選定されている。
研究グループは、現在と標本のDNAを用い、過去1万年間という長期のスケールと過去30年間という短期のスケールで、本種の個体数の歴史を調べた。その結果、コヒョウモンモドキは3,000~6,000年前に個体数が大きく増加した一方、過去30年間では個体数・遺伝的多様性ともに大きく減少していた。これはそれぞれ、人間活動が拡大し半自然草地の面積が増加したことと、一転して人間活動の変化(化石燃料への依存など)により草地面積が激減したことが要因と推定された。
本研究により、日本国内における草地性生物や草地生態系に、人間活動の歴史が大きく影響していることがわかった。この結果は、日本の草地性生物の保全だけでなく、草地生態系全体を理解するうえで極めて重要な意義を持つと言える。
さらに、本研究では、過去30年間の個体数の変化の推定に標本のDNAが用いられた。これまで昆虫の乾燥標本は、DNAが劣化しているため遺伝解析が難しいとされてきたが、過去の情報の復元に標本DNAが有用であることを示す結果ともなった。
論文情報:【Heredity】Historical changes in grassland area determined the demography