大阪大学大学院の安田智一特任助教らの研究グループは、岐阜大学、東北大学大学院と共同で、細胞から生産される直径100nm程度の微小小胞(エクソソーム)を包む脂質膜は、表裏が異なる物性を示し、非対称な二重層から構成されていること、細胞膜の信号伝達を担う脂質ラフトのような揺らぎが抑えられた領域が存在することを世界で初めて明らかにした。
細胞から分泌されたエクソソームは体内をめぐり、内包するメッセージ物質を目的の組織へ運ぶ。ガンの転移先の決定や受精・老化など様々な生命現象で細胞間情報伝達の担い手として注目されている。しかし、どのような機構で無数の細胞の中から標的細胞を選択するのか不明点も多く、現在世界中で研究されている。
今回、研究グループは、蛍光分子をエクソソームの脂質膜に取り込ませて得られる蛍光情報(蛍光異方性や蛍光寿命など)を精密に解析した。その結果、エクソソームを囲む脂質二重層の外面の最大で半分程度が、細胞での信号伝達をになう脂質ラフト(タンパク質・糖脂質等の集合した微小領域)のような領域と判明。さらにエクソソームを包む二重層の脂質膜は、従来の予想と異なり、脂質二重層の表裏の物性が異なる「非対称性」を保持していた。この非対称性がエクソソームの生体内での活性や寿命を決めている可能性もあるとみている。
今後、これらの知見により、エクソソームが標的細胞を選択する機構の解明が促進され、エクソソーム膜の脂質ラフトのような領域や非対称性などの性質を調節できれば、情報伝達活性を自在に調節した半人工エクソソームの創成や、がんの転移を標的とした薬物治療などへの展開が期待されるとしている。