麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科の島津德人准教授(食品生理学研究室)の研究グループは、2022年12月5日からクラウドファンディングを開始した。ヒトと動物が与えあう影響を「口の健康」から調査することで互いの共生のあり方を捉え直す「418(良い歯)プロジェクト」として、動物園・水族館動物の歯周病菌調査の資金調達を行う。クラウドファンディングは2023年1月27日(金)まで「READYFOR」にて実施する。
ヒト社会で高齢化が進み歯の健康状態と健康寿命の関連が注目されているのと同様に、動物園で飼育されている多くの動物で口腔疾患の増加が問題となっている。また、ペットとして飼育されているイヌやネコも、高頻度に歯周病を患うことが分かっている。一方で、自然界に棲息する野生動物には歯周病はほとんど見られないと認識されている。つまり、自然界に棲息する野生動物たちが動物園や水族館で飼育されるようになり、ヒトと動物の距離が近づくことで歯周病が発症してしまう可能性が考えられる。
この仮説を検証するために、とある飼育施設で飼育されているアシカと飼育員を対象として歯周病菌の検査を行ったところ、すべてのアシカから高病原性と低病原性の歯周病菌が検出された。さらに、注目される所見としてアシカでの歯周病菌の感染パターンが飼育員の歯周病菌感染パターンに類似することがわかった。この結果から、アシカと飼育員との間で交差感染、すなわち人獣共通感染症が生じている可能性が出てきた。
島津准教授らの研究チームは多くの動物園、水族館などの施設と連携し、さらに多くの動物たちの「口の健康」を調査する「418(良い歯)プロジェクト」のための予算確保に向け、クラウドファンディングを利用することにした。集まった資金は、菌叢解析の費用や歯周病検査機器の整備にあてる予定。目標金額は418万円(12月19日現在の寄付総額164万円)。
研究グループの代表を務める島津准教授は麻布大学獣医学部を卒業後、日本歯科大学で口腔疾患に関する研究を行ってきた。現在はフィトケミカルの口腔疾患予防効果を研究する傍ら、麻布大学いのちの博物館館長や日本歯科大学 生命歯学部 病理学講座の客員教授も兼務。博物館内に展示されているさまざまな動物の骨格標本に歯周病を発症した痕跡のある標本がたくさんあることに気づき、「歯周病菌はどこから来たのだろう」と疑問に思ったことをきっかけに、多くの動物園・水族館施設の飼育動物で調査を実施する「418(良い歯)プロジェクト」をスタートさせた。