高齢者の健康状態を考えるうえで、日常生活動作がスムーズに行えるかどうかは重要である。日常生活動作の中で、衣類の着脱や箸の使用、硬貨の把持や、読書でもページをめくる際など、手指のつまみ動作を正確に行う場面は多く訪れる。そのため手指巧緻性に関わる自覚症状の訴えは多いが、自覚症状の訴えがあるものの、臨床検査上は客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態、いわゆる“不定愁訴”であることも臨床上多くある。
では、手指巧緻性の低下や、手指の巧緻性低下に関わる自覚的な訴えは、一体どこからきているのか?その神経生理学的背景について、関西医療大学理学療法学科の福本悠樹助教と同大学院 研究科長の鈴木俊明教授は、花王株式会社との共同研究として、運動神経と感覚神経の伝導速度変化の観点から検討を行った。
研究チームは、若年者30名(21~34歳)と高齢者30名(60~74歳)の前腕セグメントでの神経伝導速度を運動神経と感覚神経共に計測した。さらに、力量調節課題中の発揮ピンチ力の絶対誤差、ペグボードを用いた手指巧緻性の評価、質問指標を使用した運動機能・痛み・しびれに関する自覚的愁訴の聴取を行った。これら計測指標は、若年者と高齢者で比較すると共に、各データ間の相関関係、および構造方程式モデリングを用いた因果関係を評価した。
その結果、運動神経伝導速度の低下が、手指巧緻性の低下に関わっていた。さらに、感覚神経伝導速度の低下は、実際の手指巧緻性の低下とは関係しないが、手指巧緻性低下に関わるような運動機能面での自覚的な訴えを生み出していると分かった。