特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所は、厚生労働省の公開資料などを用い、都道府県別の医師移動を推計した。その結果、医師勤務地選択には最大313%の都道府県格差があり、各地域の医学部出身者のうち石川県では68%、東京都でも13%の医師が他地域へ流出していることがわかった。
1961年に10万人(人口10万人あたり約104人)だった日本の医師数は、2016年には32万人(人口10万人あたり約240人)まで増加。しかし医師不足は一部では依然として深刻で、都道府県間の医療資源格差は縮まっていない。
都道府県別に人口10万人あたりの医師数をみると、上位は徳島県(315.9 人)、京都府(314.9 人)、下位は埼玉県(160.1 人)、茨城県(180.4 人)となっている。
日本では医師はほぼ自由に勤務地を選択できるが、医学部卒業後、医師がどの地域で勤務しているのか、これまで具体的な数字を出したデータはなく、医師の移動については不明なままだった。そこで、研究チームは、1995年から2014年の厚生労働省の公開データ※を分析し、都道府県別の医師養成数と実働医師数の差から見かけ上の医師の移動割合を推計した。
調査の結果、医師の流出が最も多かったのは、卒後医師の68%が他県へと移動していた石川県。逆に流入が最も多かったのは卒後医師の245%が他県より移動していた千葉県だった。医師の流出は、石川県、島根県、高知県などに多く、流入は大都市近郊、千葉県、埼玉県、静岡県などで多かった。一方で、大都市である東京都は13%の医師が流出、愛知県、大阪府、福岡県では、7.7%~.8%の幅で医師が流入していた。
医師の流入している都道府県には人口当たりの医学部の入学枠が少なく、流出している都道府県には医学部の入学枠が多い傾向にあることが分かった。これは、医学部入学枠数が多い都道府県にいる医師が、他の地域へと出て行きやすいと考えられる。東京都の場合、医学部が13校あり、人口当たりの医学部入学枠も比較的多いことから流出しているといえる。東京近郊の千葉県では、医師養成数の2倍以上の医師が他の都道府県から流入しているが、それでもなお人口10万人あたりの医師数は非常に少ない(千葉:180.4 人)。
研究チームは、日本全国でみると医師の都道府県間の移動が医師偏在に与える影響は大きく、今後の医療政策を考える上で重要な視点の一つとなると指摘している。
※使用した公開データは、厚生労働省公開資料を用い、医師・歯科医師・薬剤師調査より都道府県ごとの医師数、各医学部別の医師国家試験合格者数より都道府県ごとの医師養成数を抽出。人口データは、住民基本台帳を元にした人口データを使用。