東北大学大学院生命科学研究科の丸岡奈津美氏と占部城太郎教授らの研究グループは、1896年(明治29年)に日本で新種記載された「ミツクリミジンコDaphnia mitsukuri」を120年ぶりに再発見した。
生物の種同定は、形態的特徴により行われるのが主流であったが、近年の遺伝解析の発展により、形態で判別が困難な種でもゲノム解析により判別可能になってきた。日本でのミジンコ研究は古くから行われており、ミツクリミジンコは、1896年に東京帝国大学教授の石川千代松博士によって採取され、東京帝国大学理学部動物学の初代日本人教授である箕作佳吉(みつくり かきち)博士に因んで命名された。しかしながら、その後、日本で分類学が進展するにつれ、ミツクリミジンコの存在は疑問視され、遂には忘れ去られてしまっていた。
本研究では、千葉県印旛沼で採集されたミジンコの個体の遺伝解析と詳細な形態観察を行った。その結果として、印旛沼で採集されたミジンコは、遺伝的に既知の種とは異なること、形態的特徴が石川博士によるミツクリミジンコの記載とよく一致することが分かり、ミツクリミジンコDaphnia mitsukuriであると結論付けた。
本研究により、日本の動物学草創期の指導者であった石川千代松博士の功績が再認識された形となった。さらに、本個体と同じ塩基配列を持つ個体は中国においても発見されており、今後、ミジンコ類の東アジアにおける生物地理学的な研究も進展するものと期待される。