電気通信大学と東京大学の研究グループは、虫のぜん動運動を再現するソフトロボットの開発に成功した。
動物は長い進化の過程で、複雑な物理環境に適応するしなやかな動きを獲得してきた。一方で、こうした動物の運動特性については、その巧妙なしくみを再現できる実験系の開発が進んでいないことから、あまり明らかとなっていない。
中でも、動物の示す典型的な運動の一つであるぜん動運動に注目したのが本研究である。これまでも、シリコーン樹脂を用いて幼虫を模したソフトロボットは開発されてきたものの、ぜん動運動によって移動することはできなかった。本研究では、ショウジョウバエの幼虫をモデルに、二点の改良を加えたソフトロボットを開発した。
改良点の一点目は、真空ポンプを用いて実際の幼虫と同様に個々の体節を収縮させた(※従来は体節を膨張させていた)ことである。二点目は、幼虫の腹部には靴のスパイクのような構造があり、その摩擦が前進運動に関わっていると考えられていることから、ソフトロボットにも前後非対称な摩擦が生じるようなしくみを取り入れたことである。
この結果、開発したソフトロボットに対し適切な強度とタイミングで体節内の圧力をコントロールすることによって、ショウジョウバエ幼虫のぜん動運動のような動きを再現することができた。また、幼虫は前進運動より後進運動の方が遅いことが知られているが、開発したソフトロボットでも同様にこの特徴が観察された。
さらに、このロボットを用いることによって、幼虫の収縮力が運動速度に関係することを示すことに成功した。収縮力の強さが運動に与える影響は、従来は解析が難しかったが、真空ポンプとロボットの間のバルブの開閉時間を制御することで、収縮力を変えながら運動速度を調べたところ、収縮力が強いほど運動速度が上がることがわかったとしている。
このように、ソフトロボットを使うことで柔らかい動物が巧みに動く物理機構の理解に貢献することが期待される。