2011年3月に起きた福島第一原発事故から12年が経過し、除染等により放射能が低減した帰還困難区域への帰還が進んでいる。一方で、半減期が約30年の放射性セシウムはまだ残存しており、私たちの身の回りの存在状態、分布量を正しく知ることは帰還をより安全なものにするために欠かせない。
メルトダウン時、放射性セシウムが高濃度に濃集した直径数ミクロンの高濃度放射性セシウム含有微粒子(Cesium-rich microparticle,CsMP)が大量に形成され、環境中に放出された。CsMPは局所的に高い放射能を放つことからその分布が懸念されているが、PM2.5と同じで目に見えないほど小さく、大気とともに建物内部に流入して沈着する粒子もある。これまで、屋内の粒子数に関するデータが全く報告されていなかったことから、九州大学、スタンフォード大学、ナント大学、ヘルシンキ大学、東京工業大学、筑波大学、国立極地研究所などのグループは、福島第一原発から約2.8kmに位置する熊町小学校(事故後閉鎖)の建物内部を2016年に初めて調査した。
廊下に残留していた粉塵を採取し、独自開発した定量法でCsMPを計数した結果、多いところで1平米あたり2400個以上のCsMPが含まれていた。粉塵全体の放射能に対するCsMP由来放射能の割合(RF値)は、多いところで約39%だった。
建物外ではRF値が一様に1.5%程度で、屋外では水溶性のセシウムが均等に沈着したと考えられるのに対し、建物内の粉塵のRF値が屋外と比較して非常に高いことは、事故直後の大気の中に多量のCsMPが含まれ、それらが建物の開閉状態によっては建物内に流入し、粉塵として残されることを示唆している。
今後、同様の手法で複数の建物内部のCsMPの分布を把握し、その存在を認識したうえで適切に対処することで、より安心できる帰還につなげることが必要である。