京都⼤学霊⻑類研究所の早川卓志特定助教と中部⼤学創発学術院の松⽥⼀希准教授をはじめとした国際共同研究グループは、⻑期にわたる野外観察により、⽣活環境の異なるテングザルのオスの胃内に共⽣する多様な細菌叢を同定することに世界で初めて成功した。
テングザルは、東南アジアの密林のみに生息するテングのような⻑い⿐と⼤きい太⿎腹が特徴的なサルである。ウシなどの反すう動物と類似した複胃(4つにくびれた特殊な胃)を持っており、その大半を占める⼀番⽬の胃(前胃)には、細菌などの多種多様な微⽣物が共⽣している。近年、メタゲノム解析の技術が発展し、霊⻑類の消化管に共⽣する微⽣物を網羅的に解析することが可能になったが、複胃を持つ野生霊長類の前胃内に共生する微⽣物叢の詳細な研究例は未だなかった。
そこで、本研究グループは、生育環境の異なるテングザルの前胃内容物を採取し、細菌のDNA配列を網羅的に解析した。その結果、⾷べ物となる植物の多様性が⾼い、豊かな森に住むテングザルほど、細菌叢がより多様化していることが分かった。また、ヒトが餌付けした群れや飼育個体の前胃内には、ヒトが⾷べるような⾷べ物の消化に必要と思われる菌種が共⽣している、つまり、菌叢のヒト化が観察された。
今後、宿主である霊⻑類と、消化管微⽣物叢が、⽣態・環境との相互作⽤によりどのように共進化してきたのか、更なる研究の進展が期待される。