京都大学などの研究グループは、京都大学iPS細胞研究所との共同研究により、ニホンザルの皮膚の培養細胞からiPS細胞を作製することに成功した。ニホンザルiPS細胞の培養法や性質は基本的にヒトiPS細胞と類似しており、神経細胞のもとになる神経幹細胞へと選択的に分化誘導することにも成功したという。
ニホンザルは日本に固有のサルであり、ヒトを除けば世界最北端に生息する霊長類である。半世紀以上にわたるニホンザルの行動・社会・生態の野外観察は、日本の霊長類学の礎となっただけでなく、ニホンザルの高度な認知・運動機能は、脳神経科学の発展にも貢献してきた。
しかし、「ニホンザルの特徴がどのように形成されるのか」という問いに対しては、胎児の解剖や遺伝子改変などの外科的実験に対する倫理的・技術的制限から、発生生物学的な理解や分子メカニズムの解明が立ち遅れていた。
そこで本研究では、iPS 細胞技術を利用することに着目し、今回、ヒトやマウスのiPS 細胞のノウハウにもとづいてニホンザルのiPS 細胞を作製することに成功したという。さらに、iPS細胞から神経幹細胞を選択的に分化誘導することにも成功し、ニホンザルiPS細胞が脳神経発生を研究するための簡便な実験系を提供できることを実証した。
ニホンザルのiPS 細胞を利用することで、個体を対象とした実験が難しい胎児発生や遺伝子改変などの研究を、細胞培養レベルで行うことができる。野外調査や脳神経科学が明らかにしてきたニホンザルの特性について、今後、遺伝子や細胞の視点からより掘り下げた研究をおこなうため、ニホンザルiPS細胞が強力なツールとなることが期待される。