広島大学の研究グループは、広島大学精神科で収集されたデータの解析により、うつ病患者を3つのグループ(サブタイプ)に分けることに成功した。さらに、このうちの1つのグループでは、抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に対する治療効果が低いことを明らかにした。
現在のうつ病診断は、抑うつ気分、意欲低下などの臨床症状を担当医が主観的に判断することで行われており、客観的な診断法は未だ確立されていない。また、抗うつ薬治療も試行錯誤で行われており、治療に反応しない患者も3割程度存在することから、脳科学データに基づく客観的診断法および抗うつ薬治療反応性予測法の開発が求められている。
本研究では、広島大学精神科の被験者(うつ病患者および健常者計134名)のMRIを用いた脳機能画像解析データや脳由来神経栄養因子などの血中バイオマーカー候補物質と、心理検査や問診結果に基づく臨床評価指標を、人工知能の一つである機械学習を用いたベイズ多重共クラスタリング手法を用いて統合的にパターン解析した。その結果、右角回を中心とした脳のデフォルトモードネットワークの安静時脳活動および幼児期のトラウマ経験により、うつ病患者を3つのサブタイプに分類できることがわかった。
さらに、このうちの1つのグループが、うつ病診療で最も頻用されている抗うつ薬であるSSRIに対する治療効果が低いことが明らかになったという。この結果は、患者のMRI脳機能画像データ及び幼児期のトラウマ経験を初診時に評価することで、抗うつ薬の投与前にSSRIの治療効果を予測できる可能性を示唆し、脳科学データに基づく新しいうつ病の客観的診断・治療法開発への貢献が期待される。