大阪大学の研究グループは、計118万人のヒトゲノム情報を用いて大規模なゲノム解析を実施し、がんにおける「遺伝的素因」に影響を与える遺伝子多型(ゲノム配列上に存在する個人差)を新たに10か所同定した。
がんの発症には、各個人の「遺伝的素因」(生まれ持ったがんへのかかりやすさ)が関与していることが知られている。これまで、各がん種の発症に影響を与える遺伝子多型が数多く同定されているが、多くは欧米人のゲノムデータによる研究である。遺伝的素因が人種間で異なっている可能性もあることから、今回、バイオバンク・ジャパン(日本)やUKバイオバンク(英国)などで収集された日本人および欧米人集団からなる計118万人のゲノムデータを活用し、13種類のがんを統合した大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。
その結果、まず、特定のがんの発症に関わる遺伝子多型を新たに5か所同定した。さらに、13種類のがんすべてを対象としたがん種横断的なGWASによって、さまざまながんの発症に関わる遺伝子多型も新たに5か所同定した。
次に、研究グループはがん同士の遺伝的相関(遺伝的素因の共通の程度)を評価したところ、乳がんと前立腺がんの遺伝的素因に共通部分があることを見出した。この関係は、日本人と欧米人に共通して認められることも判明した。
この関連に注目し、乳がんと前立腺がんを統合した大規模GWASを実施したことで、両がんの発症の背景に共通して関わる遺伝子グループや細胞種などの因子も明らかにすることに成功したという。
本研究で同定された、さまざまな種類のがんの遺伝的素因に関与する遺伝子多型やその標的となる遺伝子に関する研究が今後加速することで、複数のがんをターゲットとした新規治療法の開発につながることが期待される。遺伝的素因による複雑な発がんメカニズムの理解が進めば、がんの予防や個別化医療の推進にも資する可能性がある。