順天堂大学と東京大学の研究チームは、内臓が左右非対称に発生するために働く新しい機構を発見した。
わたしたちの内臓の左右非対称性がなぜ生じるのかは発生生物学の永年の謎である。本研究チームはこれまでに、腹側ノードと呼ばれる胎児期の下腹部に相当する部分の体表に一時的に生じる凹みの中で、左向きの胚体外液の流れ (ノード流) が生じることを明らかにしてきた。また、内臓の非対称性の起源として、腹側ノードの左側のみで細胞内カルシウムが上昇し左側特異的なシグナル伝達が惹起されることも明らかとしていたが、この二つの現象をつなぐミッシングリンクとして、左向きのノード流がいかにしてノード左側のカルシウム上昇を生み出すかの機構が不明だった。
本研究ではまず、細胞内のカルシウム上昇に関係するPKD1L1ポリシスチンたんぱく質を蛍光で光るようにしたマウスの観察により、腹側ノードの中心部からノード左端に向かって、橋のような構造を介してポリシスチンが左側に移送されていくことを発見した。さらに、ノード左側に移送されたポリシスチンは、ノーダルたんぱく質と結合しており、このことによって細胞内のカルシウムが上昇することを突き止めた。すなわち、ノード流によりノード左側に移送されたポリシスチンがノーダルたんぱく質に刺激されて細胞内へのカルシウム流入をもたらし、細胞内カルシウムを左側特異的に上昇させることが、内臓発生の左右分化を決定する新たな仕組みとして示唆されたという。
本研究成果は、新しいポリシスチン移送モデルの提唱により「いかにして体の左右が異なって発生するか」という根本原理の一つにたどり着き、発生生物学の発展に大きく寄与するものである。加えて、たんぱく質の新しい細胞外移送機構を解明したことで、これをターゲットとした新しい視点の抗がん剤の開発など、種々の臨床応用も期待されるとしている。
論文情報:【Developmental Cell】Nodal flow transfers polycystin to determine mouse left-right asymmetry