畿央大学大学院博士後期課程の松田総一郎氏と大住倫弘准教授らの研究により、 サーマルグリル錯覚の過敏さが視床外側周囲の損傷と関連していること、および脳卒中後患者における中枢性感作の症状と相関していることが明らかとなった。
サーマルグリル錯覚は、温かいモノと冷たいモノを同時に触った際に灼熱痛に似た痛みや不快感を経験する錯覚をいう。中枢神経系の感覚情報処理の過程で生じるといわれるが、そのメカニズムには未だ不明な点が多い。
本研究では、「どのような脳の損傷によってサーマルグリル錯覚に過敏になるか?」を解明するため、脳卒中後患者を対象に、サーマルグリル錯覚の過敏さと脳損傷領域および臨床的特徴との関連性を検証した。サーマルグリル錯覚の過敏さは、サーマルグリル錯覚を惹起する実験で経験した痛みと不快感の強度をそれぞれ0(痛み・不快感なし)~10(想像できる最大の痛み・不快感)で回答してもらうことによって評価した。
その結果、サーマルグリル錯覚と損傷領域の分析では、サーマルグリル錯覚の過敏さが内包後脚および視床外側核周囲の病変と有意に関連していることが明らかとなった。研究グループはこの結果について、内包や視床を損傷することで脳内での痛みや温度感覚情報処理の問題が生じ、サーマルグリル錯覚が過敏になると推測している。
また、興味深いことに、サーマルグリル錯覚の過敏さは、脳卒中後患者における中枢性感作(脳の問題による痛みの治りにくさ)の症状の1つであるワインドアップ現象(繰り返される痛み刺激によって徐々に痛みを強く感じる現象)と相関していることが明らかとなった。このことは、サーマルグリル錯覚によって経験する痛みや不快感が脳卒中後患者の中枢性感作を反映している可能性を示唆しており、サーマルグリル錯覚が中枢性感作を定量評価するためのツールとなり得ることを示したとしている。
本研究成果は、サーマルグリル錯覚のメカニズム解明および脳卒中後疼痛の病態解明の一助となることが期待される。