筋肉では、健康な状態を保つために日々損傷と再生が繰り返されている。この筋肉の再生に欠かせないのが、筋肉に存在し、傷害された部分を治す役割を持つ幹細胞「サテライト細胞」だ。サテライト細胞を正常に保つ仕組みの解明は、筋肉そのものを正常に保つメカニズムの解明につながると考えられている。
今回、サテライト細胞の維持に、タンパク質分解系であるプロテアソーム系が必須であることが、日本学術振興会特別研究員SPDの北嶋康雄博士と東北大学大学院の永富良一教授、青木正志教授、鈴木直輝助教らの共同研究で明らかになった。
通常、健康な細胞では、新しいタンパク質が作られる一方で不要なタンパク質が壊されており、不要なタンパク質の分解機構をプロテアソームと呼ぶ。プロテアソームの破綻は様々な疾患につながることが示されているため、本研究では、サテライト細胞とプロテアソームによるタンパク質分解との関係に着目した。
まず、プロテアソームを構成するタンパク質Rpt3を欠損したマウスを作出したところ、約2週間でサテライト細胞が減少し、筋肉の再生が正常に行われなくなった。培養細胞を用いて解析した結果、Rpt3の欠損によりサテライト細胞の増殖および筋分化が抑制され、細胞死が誘導されることがわかったという。また、この際、細胞増殖に関わることが報告されているタンパク質p53が過剰に活性化していることが見出され、タンパク質分解系の抑制で引き起こされるサテライト細胞の機能不全にp53が関与していることが明らかとなった。
筋肉の幹細胞を正常に保つ仕組みの一端を明らかにした本成果は、今後の幹細胞研究や再生医療への応用が期待される。