総合研究大学院大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所は大人になってからの学習能力が子供時代に形成されている証拠を突き止めました。子供時代に脳内で働くα2キメリンというたんぱく質が神経細胞の形態に関わっていることが分かったのです。
私達の脳は無数の神経細胞が連なり巨大なネットワークを形成しています。学習能力に重要な役割を果たしているのが、細胞間の接続部分に存在するスパインと呼ばれる「トゲ」のような構造です。通常記憶を形成する際にはスパインは大きくなり、数も増加します。自閉症や統合失調症などの患者の脳ではスパインが異常に大きくなり、数も過剰に増加することが分かっています。しかし発達のどの段階でスパインの形成が起こり、どのような物質が関わっているのかは明らかになっていませんでした。
グループのこれまでの研究で、α2キメリンという子供のときに強く働くたんぱく質が欠損すると学習能力の異常な発達や神経細胞の混線が生じることが分かっていました。これは大人になってからの学習能力にも異常をきたします。今回の研究ではα2キメリンの働きとスパイン形成の関係に注目しました。α2キメリンを作ることができない遺伝子改変マウスの脳を調べたところ、正常なマウスに比べてスパインは大きくなり数も増加していました。これはα2キメリンがスパインの大きさと数を抑制していることを意味しています。こうしてα2キメリンにはスパインの過剰な形成を抑制することで記憶能力を適度に保つ働きがあることを突き止めました。
α2キメリンの欠損が学習能力の異常な発達の原因であることは分かりましたが、発達障害との関連はまだ明らかになっていません。今後は子供の脳全体の発達メカニズムや発達障害の理解につなげる研究を進めていくとしています。