現在も起こりつつある地球温暖化は、人間社会や自然環境に様々な問題を引き起こす。一方、急速な技術発展、都市化やグローバル化で社会経済活動は様々な形で密接につながり、また自然環境もお互いに様々な作用を及ぼし合っている。こうした人間社会や自然環境の複雑な相互依存関係によって、気候変動で生じたある問題が別の問題を引き起こす、という「影響の連鎖」が生じる。
これまでの研究では、気候変動が及ぼす影響を分野別あるいは地域別にまとめたものはあったが、様々な分野を横断して生じる影響の連鎖を、世界全体で体系的にまとめたものはなかった。
こうした中、国立環境研究所、東京大学、東京工業大学などの研究プロジェクトチームは、気候変動による影響連鎖の可視化に成功した。本プロジェクトの試みは、気候変動によって世界で起こり得る影響の全てと、影響の間の連鎖関係を、既存の文献を利用して網羅的に調査し、得られたデータを視覚的に分かりやすい形で表現するというもの。影響が生じる分野を全てカバーできるよう、水資源・食料・エネルギー・産業とインフラ・自然生態系・災害と安全保障・健康の7つの分野を選び、各分野の専門家であるプロジェクトメンバーが、21世紀中に起こり得ることを評価した研究を対象に文献調査を行った。そして、気候変動による影響を87項目、これらの影響を引き起こす気候変動要因を17項目にまとめ、さらにこれらの項目間の256の因果関係を影響の連鎖としてまとめた。
影響連鎖の図の分析から、気候変動が自然環境に影響を与え、それによって社会や経済に問題が生じ、最終的には人間の生活に影響が及ぶという大きな構造が見えてきたという。本研究は、地球温暖化問題の全体像を、研究者だけではない多くの人々が理解することに貢献すると考えられる。
論文情報:【Earth’s Future】Visualizing the interconnections among climate risks