京都大学の寺田行範大学院生と城憲秀大学院生、東京大学の山田泰広教授らの研究グループは、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った新しい脳腫瘍のモデル作製に成功。このモデルを解析することで小児の悪性脳腫瘍の病態を明らかにし、さらにその原因を狙った新しい治療戦略を開発した。
小児脳腫瘍は子どものがんの中では白血病の次に多い。特にAT/RT(非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍)は、乳児期にみられる最も悪性度の高い脳腫瘍で、半数以上の子どもが1年以内に亡くなる。患者にはSMARCB1遺伝子異常が認められる。この腫瘍の特徴的な病態の理由や悪性度が高くなる原因などについては不明で、世界的にも定まった有効な治療法がない。
研究では、ヒトiPS細胞にSMARCB1遺伝子の変異を加えて、免疫不全マウスの脳に移植した。未分化なiPS細胞の状態で移植した際にマウスの脳内にできた腫瘍を観察すると、特徴的なラブドイド細胞がみられるなどのAT/RTの特徴を持つことが分かり、世界で初めてのヒト細胞によるAT/RTモデルの作製に成功した。
また、AT/RTモデルの特徴を調べると、iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)に近い遺伝子の発現パターンである「多能性幹細胞様の遺伝子発現」を確認。患者検体による実験でこれが予後不良の原因であると判明した。
さらに、薬剤による特定の遺伝子(RAD21遺伝子またはEZH2遺伝子)の破壊・機能抑制により、多能性幹細胞様の遺伝子発現とAT/RT細胞の増殖を抑制できた。この治療戦略は、AT/RTと同じ特徴がある他の小児悪性腫瘍(神経芽腫、腎芽腫瘍、肝芽腫)にも効果があることを示した。
今回の研究は、有効な治療法がなく予後の悪い小児脳腫瘍に対して、新しい治療法開発につながることが期待できるとしている。