世界最貧国の一つとされ、サハラ砂漠以南に位置するマラウィは、過去およそ30年間、大規模な森林伐採の被害の真っ只中にある。
筑波大学の内藤久裕准教授と、同学修士課程の卒業生でありマラウィの天然資源省の職員であるAnnie Mapulanga氏の研究チームは、今回、マラウィの世帯調査のGPS情報と衛星データを用いて、各世帯の半径7.5km内の森林伐採と降雨量が、安全な水へのアクセスにどれほど影響するかの定量化を試みた。その結果、1%ポイントの森林面積の減少が、安全な水へのアクセスを約1%ポイント減少させること、また、過去10年間の森林伐採(14%)が安全な水へのアクセスに与えた影響は、現在の降雨量の9%の減少と等しいことを示した。
従来の研究では、森林は水を吸収し空気に放出するため、森林伐採は河川の水量を増加させ、水へのアクセスを減らすことはないと議論されてきた。しかし、森林伐採は雨水の土壌中への浸透を減らし、土地の浸食を招く結果、川や湖の水の濁りをもたらす。森林伐採が貧しい開発途上国の浄水コスト上昇につながるとすれば、政策上重要な問題だ。
そこで本研究では、統計学的手法を用いて、森林伐採と安全な水へのアクセスの因果関係を同定することを目指した。その結果、過去の森林伐採が、住民の安全な水へのアクセスに少なからぬ影響を及ぼすことが明らかとなった。
本研究成果は、逆に言えば、将来の9%の降雨量の減少は、14%の森林量の増加で相殺できることを意味している。このことは、森林が将来の気候変動への備えに重要な役割を果たしていることを示しているとも言える。