東京農工大学の稲田全規准教授らの研究チームは、宇宙実験と地上実験の活用により、重力の可変環境におけるマウスの飼育実験を行い、適切な重力負荷と運動が宇宙や地上に関わらず筋と骨を維持・増加させることを発見した。今回の研究成果はオックスフォード大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との国際共同研究によるもの。
今回、国際宇宙ステーション「きぼう」内で、微小重力環境または遠心飼育装置による地球上と同じ1G重力環境でマウスを1カ月飼育して比較解析し、一方、地上実験では1G通常重力環境または遠心飼育装置による2G加重力環境でマウスを2週間飼育して比較解析し、筋骨格系組織への影響を解析した。
その結果、微小重力下での長期宇宙滞在マウスの骨解析では、上腕骨と脛骨の骨量が減少したが、1G人工重力による飼育では骨量は減少しなかった。また、2G負荷マウスは頭頂骨・上腕骨・大腿骨・脛骨の骨量が増加、骨形成系・骨吸収系の遺伝子発現が上昇、下腿筋(膝から足首の筋)の筋が肥大した。肥大では筋制御遺伝子群の発現亢進、筋分解系遺伝子群の発現抑制が同時に認められ、下腿筋量は有意に増加した。
これらの結果により、異なる重力下での生活運動が筋と骨の量的制御に関わることが判明。また、2Gの重力負荷は筋・骨量を増加させ、筋骨格系の維持に適する重力の負荷範囲であると分かった。適切な重力負荷が宇宙でも地上でも、筋と骨を維持・増加させると考えられるという。
今回の研究成果により、高齢化社会の解決課題であるロコモティブシンドローム(運動器の障害により日常生活に支障が生じる状態)の予防・治療法の開発へつながることが期待されるとしている。