岐阜大学の研究グループが、50年来の難題とされてきたシアル酸の立体選択的結合反応を実現した。
シアル酸は、ヒトの細胞の糖鎖に存在する糖の一種で、免疫などにおける細胞間のコミュニケーションに関わる一方、細菌やウイルスの感染標的でもある。そのため、医薬開発の対象として重要視されているが、その化学合成には問題があった。
シアル酸が他の分子と結合するには、水平方向に結合する場合(α結合)と垂直方向に結合する場合(β結合)がある。不思議なことに、天然の糖鎖ではα結合しか存在しないが、人工的につくろうとすると、β結合ばかりができてしまうという。α結合のシアル酸の完全な作り分けには、これまで誰も成功していなかった。
今回、本研究グループは、水平方向にしか結合できないような細工をシアル酸に施せば、α結合のシアル酸のみをつくれると考え、シアル酸の上面で橋を架けるように原子同士を炭素の鎖で繋いた「橋架けシアル酸」を開発した。その結果、予想通り、「橋架け部分」の炭素の鎖が垂直方向の壁となることで、α結合のシアル酸のみを合成することが可能となった。
研究グループは続けて、橋架けシアル酸を用いて、従来法では不可能であったあらゆるシアル酸含有化合物の合成を成功させた。ワクチン開発に有用な、天然には存在しないC-グリコシドや、最難関の課題の1つとされてきたガングリオシド(糖脂質)の合成にも成功した。また、5つのシアル酸が連結した、現時点では世界最長のシアル酸5量体の合成にも成功した。
今回開発した合成法により、α結合のシアル酸含有糖鎖を大量につくれるようになれば、糖鎖が関与する生命現象や感染・疾患の解明、ワクチンや医薬品開発の研究などに大きく役立つと期待されている。
論文情報:【Science】Constrained Sialic Acid Donors Enable Selective Synthesis of α-Glycosides