慶應義塾大学医学部の大家基嗣教授、小坂威雄専任講師らのグループは、進行性の前立腺がん患者に対し、抗がん剤の効かなくなったがんに再び抗がん剤が効くよう巻き戻す“リプログラミング療法”の臨床試験に世界で初めて成功しました。
現在、進行性の前立腺がんは抗がん剤ドセタキセルを用いた治療が標準的で、その他に有用な抗がん剤や治療法がありません。諸外国ではドセタキセルは、その治療効果に応じて3-4週間ごとに合計10サイクルまで投与されますが、日本では保険の制約がないこともあり長期投与される場合があります。そのため患者の多くは、投与初期に有効性が確認されても、本治療を繰り返すうちにドセタキセルに対する効果が減弱し、再び前立腺がんが増殖するようになります。
本研究グループは以前の研究で、ドセタキセルが効きにくいがんにおいて、抗ウィルス薬リバビリンとドセタキセルを併用することが有効であることを確認しています。そのメカニズムとしては、リバビリンが、ドセタキセルが効かない遺伝子をドセタキセルが効く遺伝子に変化させているものと考えられています。今回実施したパイロット臨床試験は、長期にわたりドセタキセル療法を繰り返すうちに効果が減弱した、極めて経過の良くない進行性の前立腺がん患者5名に対して行われました。その結果、投与期間中の副作用は軽微であること、5例中2例において腫瘍マーカーPSAが低下したことが確認されました。
リバビリンは、C型肝炎の患者に対し既に臨床上使用されている、安全性の確立された薬剤です。そのため比較的円滑に導入可能であると考えられ、リプログラミング療法は大変有用な新規治療法として期待されます。