東京大学の鈴木庸平准教授らの研究グループは、海洋研究開発機構との共同研究で、南太平洋環流域の海底を掘削し、海洋地殻上部の玄武岩コア試料の取得に成功した。地球の海洋地殻上部が火星生命の生存可能性を類推する手がかりになることが期待される。
地球の70%の面積を占める海洋地殻上部を構成する岩石は、中央海嶺で噴出する溶岩が冷え固まった玄武岩だ。岩石の中でも生存可能な種類の微生物が、地球上で最大の微生物生態系を形成している可能性がある。また、火星の地殻上部と地球の海底地殻上部は類似しており、分析により地球外生命の存在可能性を類推する手がかりとなることが期待される。しかし、海洋地殻上部の玄武岩は堆積物で覆われ、試料採取の困難さから生命生存が可能な状態かは不明であった。
今回、日米が主導する国際深海科学掘削計画(IODP)という多国間国際協力プロジェクトにて、米国が提供する掘削船ジョイデス・レゾリューション号により、南太平洋環流域の水深5697mの海底から1億年前の海洋地殻を121.8m掘削し、玄武岩コアが得られた。
最先端の固体分析手法を駆使して玄武岩コア中の微小鉱物を調べた結果、玄武岩の亀裂に沿って海水が浸入・反応し、層状ケイ酸塩鉱物が形成されていた。この層状ケイ酸塩鉱物の特徴から、岩石内部で生命活動に必要な鉄と酸素の反応が進行していることも判明した。これにより、地殻中の深部玄武岩は1億年にわたり生命が生存可能であることを世界で初めて明らかにした。
今回の調査で形成が明らかとなった鉱物が、水の存在が判明した火星の地下で普遍的な鉱物と同じため、地球の海洋地殻上部から火星の生命生存の可能性が類推されることを示した。
論文情報:【Scientific Reports】Iron-rich Smectite Formation in Subseafloor Basaltic Lava in Aged Oceanic Crust