順天堂大学大学院医学研究科の金子和夫教授らの研究グループは、肩の関節が外れる「脱臼」や、ズレが生じた状態の「亜脱臼」を、ラグビー選手の利き手側で4回、非利き手側で5回繰り返すと関節に危険な骨欠損が生じやすいことを明らかにした。
選手間の接触が多いラグビー競技は、肩関節の脱臼・亜脱臼が非常に多い。脱臼は「クセになりやすい」と言われ、一度、脱臼・亜脱臼をした選手のうち約半数が1シーズンで再脱臼を起こすことがわかっている。また、脱臼・亜脱臼では、肩関節を構成する肩甲骨の関節窩(かんせつか=関節のくぼみ)前縁と上腕骨頭後外側が欠ける「骨欠損」が生じることが知られている。脱臼・亜脱臼を繰り返すほど骨欠損が大きくなり標準的な手術では対応できないため、骨欠損の状態が手遅れになる前に治療を行う必要がある。しかし、これまで具体的に何回程度の脱臼・亜脱臼で、骨欠損が危険な大きさに達するのかはよくわかっていなかった。
そこで、順天堂大学の研究チームは、2011年~2016年の間に肩関節脱臼の治療のため順天堂医院を受診したラグビー選手のうち、競技レベルでプレーし、手術歴がない等の144肩を対象に、CT検査で肩関節の骨欠損の程度を調査した。脱臼・亜脱臼の回数、年齢、弛緩性(関節が軟らかいかどうか)などの特徴をカルテから抽出し、CT検査で評価した骨欠損を程度に応じて「危険域=手術を行っても安定性が得られない」、「準危険域=手術を行っても再脱臼や痛みなどがある」、「安全域」の3つに分類。選手の特徴との関係を分析した。
その結果、約2割の選手が骨欠損「危険域」に、約6割が「準危険域」に達していた。また、「危険域」になるのは利き手側で6回、非利き手側で9回、「準危険域」になるのは利き手側で4回、非利き手側で5回という結果が出た。利き手側での受傷が少ない回数で危険域になりやすい理由は、タックル時の衝撃が非利き手側と比べて強いことが考えられる。
今回の研究結果から、繰り返す脱臼・亜脱臼に悩む選手は、早期(3回まで)に医療機関を受診し、骨欠損の評価および治療を受けることで、標準的な手術で対応できなくなることや術後不満を抱えやすい状態を防げるといえる。今後、現場の指導者、コーチ、選手自身に認識され、選手の肩の状態が手遅れになるのを防ぐ指標として、選手の安全に大きく貢献できるものと期待される。