京都大学の矢野修一助教と福勢かおる農学部生(現:埼玉県農業技術研究センター)は、体長が0.5ミリの捕食者がダニの卵を攻撃する動きを真似て筆先で卵に触れ続けると孵化が止まり、触れるのを止めると孵化が再開することを発見した。本研究は福勢氏の4回生時の卒論研究に基づいている。
カブリダニ類は農業害虫を捕食する益虫で人間を刺さない。植物の上で暮らし、餌の害虫が不足するとすぐに仲間同士で共食いする。このとき最も捕食されやすいのは、卵から孵化したばかりの幼虫で、カブリダニは卵も捕食しようとするが、卵の殻が頑丈で歯がたたずに転がしてしまう。もし卵がこの攻撃に気付いているなら、攻撃の最中には孵化するのを止めて安全になってから孵化するべきだ。そこでケナガカブリダニの卵に触れると孵化が遅れるかどうかを検証した。
実験では、孵化間近であることを知るために、短い時間に産ませた卵の集団を使用した。これらの卵の半分近くが孵化した時に使えば、残りの卵は孵化間近である。捕食者はあまり頻繁に卵を攻撃しない。そこで、捕食者の攻撃を真似て極細の筆で孵化間近の卵に触れて4分の1回転させた。孵化間近の卵の半数を転がし終えるのに5分弱かかるので、5分ごとに60分間触れ続けた。すると触れ続けている間は卵の孵化が止まり、触れるのを止めると孵化が再開し、触れなかった卵の孵化率に追いついた。また、転がしただけでは孵化の遅れの理由とはならないことも実験により確認できた。
この結果は、節足動物の卵が捕食リスクに応じて孵化のタイミングを変えることを示す最初の例だ。同様の駆け引きは頑丈な卵を個別に産む陸上動物で広くみられる可能性があるとしている。