脳や神経系を持たない菌類に決断・記憶能力があることが、東北大学大学院農学研究科の深澤遊助教、英国カーディフ大学のリン・ボッディ教授の調査で分かった。深澤助教らは菌類の知性のメカニズムを解明することが知性の進化的な起源や生態系の物質循環の解明に役立つとみている。
東北大学によると、深澤助教らは枯れ木や落ち葉の分解に主要な役割を果たす担子菌類の菌糸体を定着させた木片を、土壌を板状に敷いたシャーレに置き、菌糸体が土壌に伸びてきた段階でえさとなる新しい木片を少し離れた場所に置いて観察した。
その結果、菌糸体は見つけた木片が定着している木片より小さいと、木片から離れずに周囲の探索を続けたが、定着している木片より大きい木片を発見すると、周囲の探索を終えて新しい木片に集中して定着を始めた。
この状態で1カ月ほど培養したあと、もともと定着していた木片を別のシャーレに移したところ、小さい木片を見つけた菌糸体はもとの木片に定着したままなので、再び生長を始めた。これに対し、より大きな木片を見つけた菌糸体が定着していた木片は、菌糸体が既に新しい木片に移っていたため、生長が見られなかった。
さらに、木片から新たな成長が見られた際には、もともとえさがあった方向により多くの菌糸が伸びていた。
深澤助教らは新しく見つけた木片の大きさで完全に引っ越すか、もとの木片にとどまるかを判断し、えさとなる新しい木片がある方向を記憶しているとみている。