理化学研究所、筑波大学、宇宙航空研究開発機構、東京大学の共同研究グループは、宇宙の無重力環境下では、リンパ器官である「胸腺」が萎縮し、その萎縮は人工的な重力負荷で軽減されること、また、胸腺細胞の増殖が抑制されると萎縮が起きるという仕組みを発見した。
生体防御に重要な免疫系は宇宙滞在により影響を受ける。免疫機能が低下するとヘルペスウイルスなどの再活性化が起きると考えられる。宇宙飛行士の血液を調べた研究から、胸腺で産生した直後のTリンパ球は、宇宙に滞在すると減少することが分かっている。ヒトのリンパ器官への影響の詳細な調査は難しいため、マウスを用いた研究が行われた。
今回、共同研究グループは、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」でマウスを約1カ月間飼育し、無重力環境の胸腺への影響を調べた。その際、一部のマウスは、遠心力を利用して地球上と同じ重力(1G)を受けるように飼育した。無重力の宇宙環境で飼育したマウスの胸腺は、地上で飼育したマウスより萎縮するが、ISS内で人工的に1Gを負荷すると、胸腺萎縮はかなり軽減された。
また、各マウスの胸腺内で発現する遺伝子を網羅的に解析し、宇宙滞在による胸腺萎縮の機構を調べた。その結果、無重力で飼育したマウスの胸腺では、細胞増殖に関わる遺伝子が減少した。これにより、宇宙環境で無重力状態を経験すると、胸腺細胞の増殖が抑制され、胸腺萎縮が起きると考えられる。
今回の成果は、免疫機能に関与する胸腺と重力の関係を明らかにするもので、将来の月・火星有人探査や民間の宇宙旅行などの際に必要な健康管理や、免疫系異常の予防に貢献すると期待できる。