順天堂大学医学部整形外科学講座の坂本優子准教授(医学部附属練馬病院勤務) と石島旨章准教授らの共同研究チームは、これまで、「病気ではなく、時間が経てば自然に治る」とされてきた1歳半から2歳頃の赤ちゃんのO脚「生理的O脚」が、実は骨に大事な栄養素であるビタミンDの欠乏と関係していることを世界で初めて明らかにした。
1歳半から2歳頃の赤ちゃんにみられる、膝と膝の間が離れたO脚は「生理的O脚」と呼ばれ、小児科では『赤ちゃんにはよくあることで、そのうち治ります』と言われたり、整形外科でレントゲンを撮っても『「くる病」ではないから少し様子を見ましょう』などと言われる。「くる病」はO脚になるのと同時に、血液検査でビタミンD欠乏や骨に関する項目に異常が認められ、レントゲン画像でも骨にきちんと栄養が届いていないことが確認できる病気。一方 「生理的O脚」は、O脚だけが認められ、レントゲン画像や血液検査では基準値を超える異常な状態は見つからない。
研究チームは、「生理的O脚」でも「くる病」と同じように「骨に軽い栄養障害が起こっているのではないか」と予想し調査を実施した。調査では、O脚を心配して来院した赤ちゃんたちと、O脚がなく風邪などで来院した同じ年齢層の赤ちゃんを、男女比が同じになるように調整し、骨に関する血液検査の結果を比べた。その結果、O脚の赤ちゃんは、O脚のない赤ちゃんよりビタミンDが不足し、さらに、「くる病」では異常に高くなる骨に関する血液検査の項目(副甲状腺ホルモンやアルカリフォスファターゼ)が、基準値の範囲内だが、より高くなっていることがわかった。
また、副甲状腺ホルモンとビタミンDの相関関係もO脚の赤ちゃんとO脚のない赤ちゃんに差が認められた。副甲状腺ホルモンは、体にカルシウムが足りなくなると分泌されるため、ビタミンDが不足しカルシウムの吸収が悪くなると分泌が増える。O脚の赤ちゃんはビタミンDが不足すればするほど副甲状腺ホルモンの分泌が増えたが、O脚のない赤ちゃんはそのような傾向はなかった。このことはO脚の赤ちゃんはカルシウム摂取の不足を示している可能性がある。
これらの調査結果により、O脚の赤ちゃんはレントゲン画像や血液検査が基準値の範囲内であっても、「くる病」に近い状態にあるといえ、積極的に日光に当たったり、サケ・サンマ・イワシ・シラスなどの魚を食べたりしてビタミンDを摂取することが大切だという。 研究チームは、今後、どの時期(お母さんのお腹にいる時、生まれた後など)のビタミンD不足がO脚に関係するのか、栄養との関連、体質との関連などについて調査する。