白亜紀最末期の生物大量絶滅を引き起こした原因が大規模な酸性雨である可能性を示す証拠を、筑波大学、高知大学、京都大学、海洋研究開発機構、日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発機構、高輝度光科学研究センターなどの研究チームが発見した。
白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界(約6600万年前)に起きた生物大量絶滅では、恐竜やアンモナイトを含む70%程度の生物種が絶滅したと言われる。巨大隕石の衝突に伴う環境の激変が原因と考えられているが、実際にどのような激変が起こったのかは不明だ。
巨大隕石衝突仮説は、隕石に多く含まれるイリジウムなどの親鉄元素がK-Pg境界層に高濃度に存在することを根拠とする。一方、K-Pg境界層には銀や銅などの親銅元素も高濃度に含まれており、その濃度は隕石由来物質を上回る。すなわち、K-Pg境界層の親銅元素の濃集には落下隕石以外にも原因があると考えた本研究チームは、大型放射光施設SPring-8の放射光を用いた微量元素マッピングをK-Pg境界層の試料に適用し、生物大量絶滅を引き起こした環境激変の詳細を明らかにすることを試みた。
その結果、K-Pg境界層には、銀や銅に富む微粒子が鉱物とは別個に存在していることがわかった。これらの粒子は、酸性雨によって大陸から溶かし出された銀や銅が海洋に流れ込んで形成されたと考えられるという。さらに、K-Pg境界層の銀や銅の濃度はイリジウム濃度と高い相関関係にあったことから、酸性雨がもたらした銀や銅の濃集はイリジウムの濃集(隕石衝突)と同時期であったこともわかった。
以上の発見は、隕石衝突により放出された三酸化硫黄や一酸化窒素が直後に大規模な酸性雨となったと考えられる決定的な証拠だ。本成果により、大規模酸性雨がK-Pg境界の生物大量絶滅を招いた可能性が示されたと言える。