産業技術総合研究所の柳町真也主任研究員は、首都大学東京、株式会社リコーと共同で長期的に非常に安定した小型原子時計を開発した。
近年、本格的なIoT(モノのインターネット)時代の到来に向け、正確な時刻情報が重要とされるが、従来のGPSなどの全地球航法衛星システムは電波妨害などに対する脆弱性が指摘されている。IoT端末に小型で安定した原子時計を搭載できれば、時刻の正確さを自律的に診断・補正可能となるため安全性を確保できる。
現在、小型原子時計では原子の固有周波数の情報獲得に、コヒーレントポピュレーショントラッピング共鳴という光と原子の相互作用に由来する共鳴現象を用いるのが主流だ。しかし、長期的な時間・周波数の安定性はライトシフト(照射したレーザー光と原子の相互作用による原子のエネルギー準位の変化)の揺らぎによる周波数変動により制限されていた。
今回、面発光レーザー(VCSEL)発振波長の経年変化がライトシフトの揺らぎに関与することを定量的に解明した。しかし、ライトシフトの揺らぎの直接抑制は消費電力が増加する。そこで、VCSEL発振波長が経年変化してもセシウム(Cs)原子の固有周波数が変動しないゼロクロス法という駆動方法を考案し小型原子時計に適用した。
ゼロクロス法適用の効果は、150日以上の長期評価期間を経て慎重に検証した。その結果、Cs原子の固有周波数の変動を十分に抑制でき、平均時間を約50日間とした場合、従来の小型原子時計よりも100倍の安定性を得ることに成功した。
高安定な原子時計は、IoTネットワークを通じたシームレスなデータ収集への貢献が期待される。今後は小型原子時計の一層の高安定化を目指した研究開発を進めるという。