東京工業大学と慶應義塾大学の研究グループは、空気過剰率を上げた超希薄燃焼ガソリンエンジンに筒内水噴射を適用し、乗用車用ガソリンエンジンとして世界最高水準の図示熱効率52.6 %を達成した。
超希薄燃焼ガソリンエンジンでは低温燃焼による冷却損失の低下に伴って熱効率の大幅な向上が期待されるが、熱効率の向上には高負荷領域でのノッキング抑制と冷却損失低減が不可欠だ。従来の理論空燃比におけるガソリンエンジン水噴射の多くは水を吸気ポートより噴射する。この場合、空気・燃料の混合気は比較的均一に冷却されるが、混合気への水の均一添加によって燃焼速度は大きく低下するため、超希薄燃焼においては燃焼不安定性の増加が懸念される。
そこで本研究では、水を筒内に直接噴射し、点火プラグ近傍を避けてピストン表面付近に水蒸気を集中的に分布させる「層状水蒸気遮熱」を提案。これにより超希薄燃焼でも燃焼を悪化させずに水の冷却効果が得られ、またピストン近くの未燃領域で多く発生するノッキングとピストン表面から外部への大きな冷却損失を効果的に低減できる。
結果として、各種の条件を最適化し、空気過剰率を2程度まで上げ、圧縮比を最終的に17まで上げることで、これまで40 %程度だった乗用車用エンジンの正味熱効率を51.5 %、図示熱効率(燃焼ガスがシリンダ内でピストン上面にする仕事(図示仕事)を投入熱量で除した値)を52.6%に向上させ、乗用車用ガソリンエンジンとしては世界最高水準の熱効率を達成した。
今後は水蒸気分布と熱流束の同時計測などにより熱効率向上の機構解明を進め、水噴射インジェクタの形状や設置位置を含めた最適化により熱効率をさらに向上できるとしている。