50℃未満で水素と窒素からアンモニアを合成できる触媒を、東京工業大学のグループが初めて開発した。
アンモニアは肥料として人口の70%の生命を支えており、その生産量は年間1億7千万トンに達する。しかし、原料となる水素は化石資源を燃やすことで得ており、CO2総排出量の3%を占める。
そのため、CO2排出なしに、自然エネルギー発電によって水を電気分解してクリーンに水素を得る手法が考えられているが、従来の触媒では水素と窒素からアンモニアを合成するのに400℃程度の高温が必要となる。アンモニア生産に自然エネルギーの発電量の大半を費やすことになるため、水素生産に回せる電力が不足しかねない。
そこで本研究では、低温でアンモニアを合成する触媒の開発に取り組み、低温でも電子を与える力が強いという性質をもつ「水素化フッ素化カルシウム(CaFH)」に着目した。CaFHとルテニウムナノ粒子の複合材触媒を開発したところ、50℃以下でもアンモニアを合成し、室温でさえ作動していることがわかった。それだけでなく、200℃でのアンモニア合成速度すら現在用いられている最高性能触媒の2倍を超えており、300℃を超える反応温度でも900時間以上アンモニア合成速度の低下なく作動し続けるという安定性も確認された。
従来の触媒はいかなる改良を施しても100℃以下では全く作動しなかった一方で、100℃以下の室温でも作動する上、既存の触媒を凌駕する性能をもった触媒を生み出した本研究成果の意義は大きい。アンモニア生産の大幅な効率化はもちろん、自然エネルギーを使ったCO2排出ゼロのアンモニア生産へ道が開かれたと言えよう。