法政大学生命科学部の廣野雅文教授、東京大学大学院理学系研究科の苗加彰大学院生らは、スイスPaul Scherrer研究所のMichel O. Steinmetz博士らとの共同研究により、細胞内小器官の中心子の構造を決定する仕組みを解明しました。
ヒトを含む全動物の細胞には中心子が存在し、その中心子を基部として伸長した繊毛内部では、2本の微小管を9本の2連微小管が囲んだ「9+2」構造が形成されます。太古から受け継ぐこの構造は「マジックナンバー9の謎」として長く未解明でした。
中心子内腔の底部には、スポークが9本の車輪のようなカートホイールという構造があります。研究グループの過去の研究により、このカートホイールが18個のSAS-6というタンパク質の会合により形成され、中心子の形の決定にはカートホイール以外の要因も働くことが明らかになっています。
今回、クラミドモナスを用いてSAS-6に変異を加え、6つの2量体によるリング(6回対称)作製により形成される中心子を検討。その結果、微小管8本の中心子(8回対称)が形成されるものの、多くは9本微小管のままでした。しかし、SAS-6に加えて、タンパク質改変によりカートホイールと中心子微小管の結合を弱めると、6本スポークのカートホイールが形成されました。
これにより、中心子の9回対称性の決定にはカートホイール以外の要因の関与が裏付けられ、カートホイールの周囲に配置した微小管が中心子の形だけでなくカートホイールの形にも影響することが示されました。本研究では、独立に形成されたカートホイールと中心子の微小管のダイナミックな相互作用の結果、9回対称性の中心子が安定化されて残るという新しいモデルを提唱しています。
中心子の形成異常は、細胞のがん化や、繊毛の異常による病気(水頭症、嚢胞腎、内臓逆位など)を生じるとされ、今回の発見はそれらの疾患の理解や治療に役立つと期待されます。