慶應義塾大学、東海大学、滋賀医科大学、株式会社イナリサーチなどのグループは、カニクイザルの子宮移植を行い、非ヒト霊長類動物として世界で初めて子宮移植後の出産に成功した。
生まれつき子宮がない、もしくは何らかの原因で子宮を失ったことによって生じる不妊症である「子宮性不妊症」の女性は、自らのお腹で妊娠、出産することができない。これに対して、ドナーから子宮の提供を受けて移植を行い妊娠出産を目指す「子宮移植」という新たな医療技術の研究が2000年頃から開始され、これまでにラットやヒツジなどの動物で子宮移植後の出産が報告されてきた。しかし、ヒトに解剖生理学的に近い非ヒト霊長類動物での妊娠出産は実現されていなかったという。
本グループは、2009年から非ヒト霊長類動物であるカニクイザルを用いて子宮移植研究を行ってきた。カニクイザルは体重約3kgと非常に小さく、術後管理も難しいことから、子宮移植モデルの作製は困難と考えられていたが、今回、拒絶反応に関わるMHC(Major Histocompatibility Complex; 主要組織適合性複合体)を統御したカニクイザルを計画的に繁殖させ、MHC統御カニクイザルの母娘間を想定したペア間での子宮移植モデルを作製したところ、非ヒト霊長類の子宮移植例としては世界で初めて妊娠、出産に成功した。
本研究のカニクイザルでの子宮移植後の出産成功により、子宮移植は技術的に可能であることが証明され、さらにその動物実験モデルを作製したことは、子宮移植に関わる医学的課題の解明にもつながる大きな成果だ。本グループは今後、国内初の子宮移植の臨床応用を目指しており、子宮性不妊女性に希望の光をもたらすことが大いに期待されるとしている。