北海道大学大学院医学研究科分子生物学分野の佐邊壽孝教授、橋本あり助教らは、大阪大学と東北大学との共同研究により、細胞内のメバロン酸経路が乳癌の浸潤・転移や治療耐性に大きく関わること、また、メバロン酸経路阻害薬スタチンが乳癌治療に有効であることを明らかにしたと発表した。
本研究者らは以前に、高悪性度の乳癌の多くにArf6 蛋白質とそのシグナル伝達因子 AMAP1が高発現し、浸潤・転移を促進することを明らかにした。今回、悪性度の進行した乳癌には EPB41L5 という本来は間充織細胞に見られる蛋白質が強く発現し、このEPB41L5 は AMAP1 の結合相手であり浸潤転移に必須であることを見出し、この Arf6 経路は、悪性度の進展した癌に現れる間充織型シグナル経路であることを明らかにした。
乳癌の多くは増殖因子受容体の異常発現によりArf6 を活性化するが、今回さらに、このArf6 活性化にメバロン酸経路活性が必須であることを分子的詳細とともに明らかにした。これにより、癌抑制遺伝子 TP53 の変異が乳癌悪性度進展にどのようにして関わるのかがわかり、高発現した Arf6-AMAP1-EPB41L5 経路が、浸潤転移だけではなく薬剤耐性の根本であることも解明した。
高脂血症治療に使用されるスタチンはメバロン酸合成経路の阻害剤であるが、スタチンにより乳癌の浸潤転移、薬剤耐性を著しく軽減できた。ただし、これはArf6、AMAP1、EPB41L5 を強く発現している乳癌に限定される。一方、国際的乳癌データベースの解析により、Arf6-AMAP1-EPB41L5 経路の高発現は患者の低生存率と強い相関があることも判明した。
今回の研究成果は、今後の癌治療法改善に大きく貢献する知見であり、その重要性からJCB 誌の InFocus にも大きく取り上げられたと説明している。