東京大学の染谷隆夫教授と大阪大学の関谷毅教授らの研究グループは、生体適合性ゲル電極を持つ柔軟な有機増幅回路シートの開発に成功したと発表。生体内に埋め込み、微弱な生体活動電位の計測が実現したという。
心臓のペースメーカーや人工内耳などの生体内埋め込み型の電子デバイスは、シリコンなどの硬い素材で作られているが、生体との親和性を高めるため、柔軟性に優れた有機材料の研究開発が進められている。しかし、生体内では拒絶反応や炎症反応などの防御機能により、デバイスを生体内に長期間埋め込み、安定して生体信号を計測することは困難だった。
今回、研究グループは、ポリロタキサンというヒドロゲルに単層カーボンナノチューブを均一に混ぜて新ゲル素材を作製した。イオン液体でカーボンナノチューブを解きほぐす技術により、ゲル中にナノチューブを均一に分散させ、ゲルの導電化に成功。次に、この新ゲル素材の生体適合性を評価するために、4週間の生体内埋め込み試験を実施したところ、炎症反応が極めて小さい材料であることを確認した。さらに、このゲル電極と極薄の高分子フィルムに製造された有機トランジスターの増幅回路を集積化して、生体適合性に優れたシート型生体電位センサーを実現した。このセンサーを心臓疾患のあるラットの心臓に貼り、虚血症による異常な心電と正常な心電を測定することで、心筋梗塞の部位を正確に特定した。特に、増幅回路によって信号対雑音比が大幅に向上したという。
将来は、このシート型生体電位センサーを長期的に体内に埋め込むことで、早期に疾病を発見して治療に生かすなど、次世代医療デバイスとしてさまざまな応用が期待されるとしている。